FC2ブログ

はじかれ人の呟き

社会からはじかれ、健康にも見放され、孤独を生きる。

サンタクロースは長い黒髪をなびかせていた

高校を卒業して専門学校へ通い始めた頃、平日の夜は飲み屋でアルバイトをしていた。

そこはクラブと呼ばれていて接客に若い女性がつく店だった。

初めは慣れない飲み屋でのアルバイトが嫌で仕方がなかったが、時給が1200円もらえたので我慢した。

仕事はトイレ掃除に始まり店の掃除、そしてボーイをした。18時から23時までの5時間。23時に終われば最終電車に間に合った。

まずは見習いを1か月ほどして仕事を覚え、2か月目からは一人でこなしていった。

アルバイトを始めて半年ほどたった頃、一人の女の子が新しく入ってきた。

その子は見た目が若く幼さも残っていたが、目の奥に暗い影があるような感じの子だった。

無口なため客の評判があまり良くなかった。


年末が近づいたクリスマスイブの夜、事件が起きた。

いつものように各テーブルの灰皿の取り換えや空いたグラスの回収などをしていた時に、キャーという悲鳴と共にグラスが割れる音がした。

その方向へ視線を移すと、声の主はあの暗い目の女の子だった。

女の子は立ち上がっていて隣には派手な赤と黒のセーターを着た男が何やら騒ぎ立てていた。

どうやら男がその子の胸を触り、それを嫌がって女の子が客の手を払ってしまいグラスが落ちて割れてしまったようだ。

客はひざに水割りをこぼしてしまい、それを怒っていた。

私はすぐにそのテーブルまで行き、お客に謝りお客のズボンを拭いた。

そしたらいきなり突き飛ばされてしまった。

「汚ねえタオルで拭くんじゃねえ!ガキが!」と怒鳴られた。

その後店長が来てお客に謝り料金をただにするという事で許してもらった。

女の子は私のところに来て「大丈夫?ごめんなさい」と言って頭を下げた。

その時の目は暗さよりも悲しみに溢れていた。

「ああ、大丈夫」と言って彼女を安心させた。

彼女はその間ずっとうつむいたままだった。長い黒髪が揺れていた。

その姿を見て何か声をかけなければと思い。「大丈夫だから。何も心配いらないから」と彼女を励ました。


その翌日の夜、店の準備をしていた時に彼女が店にやってきて店長となにやら話をしていた。

その後彼女が私のところへ来て言った。「わたし、この店をやめるの。お世話になりました」と。

私はその時、驚きのあまり何も言葉が出なくて「そうなの」としか答えられなかった。

彼女は「昨日はありがとう。じゃーね」と言うと大きなバッグを持って店を出て行こうとした。

私は見送ろうと店の外へ出た。

彼女は「それじゃ、行くね。バイバイ」と言うと手を振ってきた。

「ああ、バイバイ」と私も手を振り返ししばらく見送ろうとしたら、彼女が急に振り返り戻ってきて私の手に小さな箱を握らせた。

あまりに突然だったので私は頭にかぶっていたクリスマス用の三角の赤い帽子を落としてしまった。

呆気にとられる私を残して彼女は笑いながら手を振って駅の方へ歩いて行ってしまった。

その箱は緑のリボンがかけてありサンタクロースが描かれた包装紙に包まれていた。

開けてみると中には丸いチョコレートが2つ入っていた。手作りだった。

それが私の最初のクリスマスプレゼントになった。


店長から彼女の話を聞いた。

歳は17歳で高校へは行ってなく、中学を卒業してからはアルバイトをしながら生活していたそうだ。

新潟から来たと言っていた。

私はあの小学4年生の時から、暗い目をした無口な女の子に惹かれてしまう。

そういう子が困っているとすぐに助けるようになってしまった。

あの事件だって飲み屋では日常茶飯事で普段なら我関せずで通していたのに、あの子が困っていたから関わってしまった。

どことなく小学校の時に突然いなくなった女の子に似ているような気がしてしまったのもあった。


仕事が終わり外へ出るとまだ町にはクリスマスソングが流れていた。

その時はまた彼女に会えるかもしれないような気がしていたが、結局会えずじまいになってしまった。

でも自分にとって最初のクリスマスプレゼントをくれた彼女の事はいまだに忘れる事ができない。

小学生の時に突然いなくなった女の子と共にだ。

どこかで幸せになっていて欲しい。

彼女らが幸せになっていることが、私の幸せでもあるからだ。








関連記事

☆彡